2022年度に厚生労働省が発行した「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」によると、日本では約4.4組に1組の夫婦が、不妊の検査や治療を経験しています。
この記事では、2022年4月から不妊治療に健康保険が適用されること、および、企業における不妊治療と仕事の両立支援制度について解説します。
不妊治療の健康保険適用について
2022年(令和4年)4月から、不妊治療に健康保険が適用されています。
とはいえ厳密には、2022年3月以前にも、健康保険が適用されている不妊治療はありました。
ですから、2022年4月から健康保険が適用される不妊治療の範囲が広がったと言った方が正確でしょう。
2022年3月以前から健康保険が適用されている不妊治療は、以下のものです。
- ●検査(原因検索)
→診察所見、精子の所見、画像検査や血液検査などを用いて診断する。
- ●原因疾患への治療
→手術療法や薬物療法を行う。
2022年4月からは、上記に加えて、以下の不妊治療も健康保険の適用となっています。
- ●一般不妊治療
・タイミング法
→排卵のタイミングに合わせて性交を行うよう指導する。
・人工授精
→精液を注入器で直接子宮に注入し、妊娠を図る。- ●生殖補助医療
・体外受精
→精子と卵子を採取した上で体外で受精させ、子宮に戻して妊娠を図る。
・顕微授精
→体外受精のうち、卵子に注射針などで精子を注入するなど、人工的な方法で受精させる。
・男性不妊の手術
→射精が困難な場合などに、手術用顕微鏡を用いて精巣内より精子を回収する。
2022年4月から健康保険が適用されている不妊治療の生殖補助医療に関して、もう少しくわしくご説明します。
生殖補助医療は、以下のような流れで行われます。
1、採卵・採精
↓
2、体外受精・顕微授精
↓
3、受精卵・胚培養
↓
4、胚凍結保存
↓
5、胚移植
生殖補助医療では、上記のものに追加して実施される治療もあります。たとえば、以下のようなものです。
- ・卵子活性化
- ・アシステッドハッチング
- ・高濃度ヒアルロン酸含有培養液
- ・子宮内膜受容能検査
- ・子宮内細菌叢検査
- ・子宮内膜スクラッチ
- ・反復着床不全に対する投薬
これらのなかには、先進医療として健康保険の診療と併用できるものもあります。
「先進医療」とは、健康保険適用外の先進的な医療技術として認められたものを言い、健康保険の診療と一緒に行うことが可能です。
先進医療については、不妊治療を受ける医療機関に確認するようにしてください。
健康保険が適用される不妊治療の要件について
健康保険が適用される不妊治療の範囲が広がったと言っても、一切なんの制限もないというわけではありません。 健康保険が適用される不妊治療では、年齢などに関して制限が設けられています。
- ●年齢の制限
不妊治療の開始時において、女性の年齢が43歳未満であること
- ●回数の制限
・初めての不妊治療の開始時点で、女性の年齢が40歳未満
→通算6回まで(1子ごとに)
・初めての不妊治療の開始時点で、女性の年齢が40歳以上43歳未満
→通算3回まで(1子ごとに)- ●医療機関の制限
医療機関が、健康保険診療として不妊治療を行う場合には、地方厚生局に届け出をしなくてはいけないことになっています。 ですから、健康保険が適用される不妊治療を受けるためには、届け出をしている医療機関でなくてはいけません。 その医療機関については、厚生労働省のホームページに一覧が掲載されていますので、そちらでご確認ください。
ちなみに、事実婚のカップルに対しても、不妊治療の健康保険適用は認められています。 ただし、医療機関を受診したときに、事実婚関係について確認されたり、書類を求められたりすることがあります。
健康保険適用の不妊治療であっても、医療機関での治療費は負担しなくてはいけません。
医療機関での窓口の負担額は、治療費の3割です。したがって、不妊治療の治療費が高額になるケースも、当然考えられます。
治療費が高額になったときは、健康保険の高額療養費制度を利用することができます。
「高額療養費制度」とは、1カ月(1日から末日まで)にかかった治療費の自己負担額が高額になった場合に、一定の金額(自己負担限度額)を超えた金額を、あとで払い戻してもらえる制度です。
自己負担限度額は、年齢や所得状況などによって決まります。
具体的な自己負担限度額については、ご自身が加入している健康保険に確認してください。
高額療養費制度は、あくまでも払い戻しを受けられる制度なので、一旦は医療機関で治療費を支払わなくてはいけません。
治療費が高額になると前もってわかっているときは、「限度額適用認定証」を利用するという方法もあります。
「限度額適用認定証」は、加入している健康保険に申請し、発行してもらいます。
この「限度額適用認定証」を、健康保険証と一緒に医療機関の窓口で提示すれば、1カ月の治療費の支払いが自己負担限度額までで済みます。
「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」によると、不妊治療と仕事との両立ができず離職した人の割合は、16%となっています。女性に限って言えば、23%が離職しています。
不妊治療と仕事との両立が難しい原因としては、精神面での負担の大きさや、通院回数の多さなどが挙げられています。
不妊治療にまつわる知識が不足しているがゆえに、不妊治療と仕事の両立支援制度の企業での導入や利用が、進んでいないという現実もあります。
労働者が不妊治療と仕事を両立させるためには、まず、自身が勤めている企業にどのような両立支援制度があるのかを知っておかなくてはいけません。
一例として、以下のような両立支援制度が考えられます。
- ●不妊治療のために利用できる休暇・休職制度
- ●短時間勤務制度
- ●不妊治療の費用の助成制度
企業での両立支援制度については、人事や労務の担当者に問い合わせるのが、早く、確実でしょう。 ですが、不妊治療は自身のプライバシーにかかわることでもあります。 人には打ち明けずこっそり調べたいというときは、就業規則などの企業の規則を読んでみてください。
2022年4月から、不妊治療と仕事との両立に取り組む企業に対する認定制度が、あらたに設けられました。
それが「不妊治療と仕事との両立に係る認定制度」、通称「くるみんプラス」です。
そもそも「くるみん」とは、厚生労働大臣が「子育てサポート企業」という認定(くるみん認定)を企業に与えるという制度です。
「くるみんプラス」は、「くるみん認定」を受けた企業が、不妊治療と仕事との両立支援に関する一定の認定基準を満たした場合に、「プラス」認定が追加されるものです。
不妊治療と仕事との両立に関する認定基準には、たとえば、以下のようなものがあります。
- ●不妊治療と仕事との両立の推進に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに労働者に周知していること
- ●不妊治療と仕事との両立に関する研修、その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取り組みを実施していること
「くるみんプラス」を受けるには、企業が都道府県労働局に申請をしなくてはなりません。「基準適合認定一般事業主認定申請書」に必要書類を添付し、郵送・持参・電子申請いずれかの方法で提出します。
「くるみんプラス」認定を受ければ、不妊治療と仕事との両立に積極的に取り組んでいる企業として、認められたことになります。
これにより、企業のイメージアップや優秀な人材の確保といったメリットも期待できます。
不妊治療はプライバシーに関することでもありますので、友人や同僚にもなかなか相談しにくいかもしれません。
各都道府県や指定都市には、「性と健康の相談センター」が設けられています。
不妊に関する医学的・専門的な相談や、不妊による心の悩みなどについて、医師や助産師といった専門家が相談に応じてくれます。
よろしければご活用ください。