公開日:2023年3月3日
ワークライフバランスの重視などから、多様な働き方が求められるようになっています。
2022年10月には、多様な働き方の実現を目的のひとつとして、「労働者協同組合法」が施行されました。
この記事では、施行がはじまったばかりの労働者協同組合法について解説します。
労働者協同組合法について
労働者協同組合法とはどのような法律か
労働者協同組合法とは、2022年(令和4年)10月1日から施行されている新しい法律です。
この労働者協同組合法では、「労働者協同組合」の設立や運営、管理などについて定められています。労働者協同組合については、次項以降くわしくご説明します。
労働者協同組合法ができた背景のひとつに、多様な働き方があります。
ご存知のとおり、日本では少子高齢化が進んでいます。そんななか、人口が減少している地域において、介護や障害者福祉、子育て支援、地域づくりなどの多様な分野で、多様なニーズが生じています。
したがって当然、その担い手が求められます。
ですが、担い手となろうとする人たちが、ワークライフバランスを保ちつつ、意欲や能力に応じて働ける機会は、充分に確保されているとは言えません。
労働者協同組合は、それらの担い手が多様な働き方を実現すると同時に、地域の課題に取り組むための手段のひとつなのです。
労働者協同組合法は、持続可能で活力ある地域社会を目指しています。それを叶えるために、多様な働き方や、地域の多様なニーズに応じた事業を促進するのです。
労働者協同組合とはどのようなものか
労働者協同組合とは、労働者協同組合法に基づいて設立された法人を指します。
前述した地域社会の多様なニーズの担い手となろうとする人たちは、状況に応じてNPOや企業組合などの法人格を利用したり、任意団体として法人格を持たずに活動したりしています。
しかしながら、既存の法人格や任意団体の枠組みにおいては、出資ができない、財産が個人名義となるなどのデメリットがあります。
そのため、多様な働き方を実現しつつ地域の課題に取り組める組織として、労働者協同組合が創設されるに至ったのです。
労働者協同組合は、労働者協同組合法第3条で定められた下記3つの基本原理に従っていなくてはなりません。
- ●組合員が出資すること
組合員には出資の必要があり、組合員自らが出資することによって、労働者協同組合の資本形成を図ります。
- ●その事業を行うにあたり、組合員の意見が適切に反映されること
組合員は1人1票の議決権および選挙権があります。労働者協同組合は、組合員の意見を反映して、事業・経営を行います。
- ●組合員が、組合の行う事業に従事すること
組合員は、原則として、組合の事業に従事しなくてはなりません。ただし、家庭の事情(育児・介護など)で一時的に働けない場合など、例外も認められています。
ほかにも、労働者協同組合法第3条には、以下のことが明記されています。
- ●営利を目的としてその事業を行ってはならない
- ●特定の政党のために利用してはならない
労働者協同組合の特色と設立について
労働者協同組合の特色とは
労働者協同組合について、具体的にご説明しましょう。
労働者協同組合の主な特色として、下記のような点が挙げられます。
- ●地域における多様なニーズに応じた事業ができる
労働者派遣事業を除いて、あらゆる事業が可能です。ただし、許認可などが必要な事業については規制を受けます。
- ●簡便に法人格を取得でき、契約などができる
3人以上の発起人がいれば、労働者協同組合は設立できます。
労働者協同組合は法人格を持ちますので、労働者協同組合の名義で契約をすることも可能です。
- ●組合員は労働契約を締結する必要がある
労働者協同組合は、組合員との間で労働契約を締結します。
労働契約を締結しなくてよい組合員は、組合の業務を執行する組合員(代表理事)、理事の職務のみを行う組合員(専任理事)、監事に限られています(労働者協同組合と委任契約を締結する)。
- ●出資配当はできない
剰余金の配当に関しては、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行います。
- ●都道府県知事による監督を受ける
都道府県知事に決算関係書類などを提出しなくてはならないなど、都道府県知事による監督を受けます。
労働者協同組合の設立の手順とは
労働者協同組合を設立するための手順を、簡単にまとめました。
- 1.発起人を3人以上集める
労働者協同組合の組合員になる意思のある人が、3人以上必要です。
- 2.必要書面を作成する
労働者協同組合の設立に必要な書類は、たとえば、以下のようなものです。
・定款
・事業計画書
・収支予算
- 3.創立総会を公告する
設立総会の2週間前までに、日時・場所・定款を公告しなくてはいけません。
- 4.創立総会を開催する
創立総会では、たとえば、以下のようなことを行います。
・定款の承認
・事業計画書や収支予算の議決
・役員の選挙
- 5.出資を払い込む
理事は事務を引き継いだ後、すみやかに組合員に第1回の払込みをしてもらう(出資1口につき4分の1以上)
- 6.労働者協同組合法人設立の登記をする
必要な書類などを提示または添付し、主たる事務所の所在地を管轄する法務局で、設立の登記をする
- 7.労働者協同組合設立の届出をする
登記後2週間以内に、行政庁(主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事)に、労働者協同組合の成立の届出をする
- 8.事業開始の準備をする
事業開始にあたっては、たとえば、以下のようなことが必要となります。
・銀行口座の開設
・社会保険の手続き
・税務関係各種届け出
これらの手順を経て、労働者協同組合は事業を開始することとなります。
労働者協同組合の具体的なルールについて
労働者協同組合の事業・配当のルールとは
労働者協同組合が行う事業に関しては、下記のようなルールが設けられています。
- ●事業の種類は原則として自由である
労働者協同組合の基本原理に従って行われ、持続可能で活力ある地域社会の実現に資する事業であれば、原則として自由に行えます。
その場合であっても、介護事業などの許認可などが必要な事業については規制を受けます。また、労働者派遣事業を行うことができません。
- ●事業従事にあたって人数要件がある
全組合員の5分の4以上の数の組合員が、組合の行う事業に従事しなければなりません。また、組合事業に従事する者の4分の3以上は、組合員であることが必要です。
- ●組合員が組合の事業に従事した程度に応じて配当を行う
労働者協同組合の健全な運営を確保するために、労働者協同組合は「準備金」「就労創出等積立金」「教育繰越金」を積み立てる必要があります。
準備金は、毎事業年度の剰余金の10分の1以上の額です。就労創出等積立金および教育繰越金は、毎事業年度の剰余金の20分の1以上の額です。
労働者協同組合の組合員のルールとは
労働者協同組合の組合員に関しても、下記のようなルールが設けられています。
- ●組合員の出資金
出資金1口の金額や必要な出資口数は、それぞれの組合で決めます(現物出資も可能)。
1人の組合員の出資口数は、原則として、総口数の100分の25以下と定められています(3人以下の労働者協同組合は適用外) 。
- ●組合員の議決権・選挙権
組合員は、平等に1人1票の議決権と選挙権を持っています。
組合と労働契約を締結した組合員が、議決権の過半数を持たなければいけません。
- ●組合への加入・脱退
組合員は任意に加入および脱退ができます。ただし、組合員の脱退が、ただちに労働契約の終了となるわけではありません(別途手続きが必要)。
- ●労働契約の締結
前述したとおり、労働者協同組合は、事業に従事する組合員と労働契約を締結しなければなりません。この労働契約によって、組合員は組合の労働者となるのです。
労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令が適用され、労働者として保護されます。また、社会保険に加入することも可能です。
は、平等に1人1票の議決権と選挙権を持っています。
組合と労働契約を締結した組合員が、議決権の過半数を持たなければいけません。