人と人との間にトラブルや軋轢が生じるのは、残念ながら、避けがたいことかもしれません。世の中には、さまざまなハラスメントが存在します。職場においても、それは例外ではありません。
この記事では、職場におけるセクハラおよびマタハラ、ジェンハラの定義と、事業主が講じるべき対策について解説します。
セクシュアルハラスメントとは
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、厚生労働省のサイトにおいて、以下のように記されています。
- ●労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇・降格・減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
- ●性的な言動が行われることで、職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
上記に該当する言動は、異性に対してであれ同性に対してであれ、セクハラとなります。相手の性的指向や性自認を問わず、セクハラに該当する可能性がありますので、ご注意ください。男性も女性も、セクハラの行為者にも被害者にもなりえるのです。
また、職場とは、いつも仕事をしているオフィスや事業所に限定されません。出張先や取引先、さらに、業務の延長と考えられる宴会も含まれます。
すべての事業主は、男女雇用機会均等法に基づいて、以下のような職場のセクハラ対策が義務づけられています。
- ●事業主の方針を明確化し、それを周知・啓発する
- ●相談(苦情を含む)に応じ、適切な対応のために必要な体制を整備する
- ●職場におけるセクハラにかかわる、事後の迅速かつ適切な対応
- ●併せて講じるべき措置
セクハラの内容や「セクハラが起きてはならない」ことを就業規則などに明記して、周知、啓発する。
セクハラの被害者や目撃者が相談しやすい窓口(相談担当者)を、社内に設置する。
セクハラの相談について、迅速に事実確認をし、被害者への配慮や行為者への処分などの措置を行う。また、再発防止の措置を改めて行う。
相談者・行為者などのプライバシー保護のために、措置を講じる。相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に、不利益な取り扱いをしてはならない旨を定め、周知、啓発する。
前述したとおり、男性がセクハラの被害者となることもありえます。ですから、性別を理由に、セクハラの相談をためらう必要などありません。相談者が男性労働者だからといって適切な対応や措置を行わないことは、事業主の義務に反します。
マタニティハラスメントとは
セクハラとは異なり、マタニティハラスメント(マタハラ)という言葉は、厚生労働省の資料においては使われていません。
「妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメント」という言い方をされています。この記事では、便宜上、これをマタハラと呼ぶことにします。
職場におけるマタハラとは、以下のようなものです。
- ●産前休業・育児休業などの制度や措置の利用に関する言動によって、就業環境が害されるもの(制度などの利用への嫌がらせ型)
- ●女性労働者が妊娠したこと、出産したことなどに関する言動によって、就業環境が害されるもの(状態への嫌がらせ型)
つわりなどで業務の能率が下がったことや、切迫流産で仕事を休んだことに対する言動についても、マタハラに該当することになります。
また、マタハラの被害者が、女性労働者だとは限りません。「制度などの利用への嫌がらせ型」のマタハラであれば、男性労働者も被害者となりえます。
すべての事業主には、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に基づいて、以下のような職場のマタハラ対策が義務づけられています。
- ●事業主の方針を明確化し、それを周知・啓発する
- ●相談(苦情を含む)に応じ、適切な対応のために必要な体制を整備する
- ●職場におけるマタハラにかかわる、事後の迅速かつ適切な対応
- ●マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置を講じる
- ●併せて講じるべき措置
マタハラの内容や「マタハラがあってはならない」こと、妊娠・出産・育児に関する制度が利用可能であることなどを、就業規則などに明記して、周知、啓発する。
マタハラの被害者や目撃者が相談しやすい窓口(相談担当者)を、社内に設置する。
マタハラの相談について、迅速に事実確認をし、被害者への配慮や行為者への処分などの措置を行う。また、再発防止の措置を改めて行う。
マタハラの原因や背景となる要因を解消するため、業務体制を整えるなど、事業主や労働者の実情に応じて、必要な措置を講じる。
相談者・行為者などのプライバシー保護のために、措置を講じる。相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に、不利益な取り扱いをしてはならない旨を定め、周知、啓発する。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、セクハラやマタハラに比べると、新しい言葉です。そのためか、認知度もやや低く、厚生労働省のサイトにも、はっきりした記載はありません。
ジェンハラとは、簡単に言えば、ジェンダー、つまり、性別に関するハラスメントを指します。
社会通念上の性別意識(男らしさ・女らしさ)に基づいて、取るべき言動について圧力をかけるハラスメントです。
職場におけるジェンハラとしては、たとえば、次のようなものが挙げられます。
- ●女性社員にだけ、お茶くみや来客対応をさせる
- ●男性社員にだけ、力仕事や残業をさせる
ジェンハラは、セクハラとは区別されています。区別するポイントは「性的な言動」が含まれているか否かです。 対価型・環境型いずれのセクハラに関しても、そもそも「性的な言動」が行われたことが要件となります。ですから、性的ではないけれど性別に関する言動によるハラスメントは、ジェンハラに該当します。
ジェンハラについては、事業主が講じるべき措置が明確に記されてはいません。とはいえ、むろん、ジェンハラは看過してよいものではありません。
ジェンハラが、セクハラやマタハラの原因や背景となる可能性も、じゅうぶんに考えられます。
事業主には、職場におけるハラスメントの防止が求められています。厚生労働省のパンフレットには、以下の取り組みを行うことが望ましいとされています。
- ●各種ハラスメントの一元的な相談体制を整備する
- ●職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組み
- ●労働者や労働組合などの参画
ハラスメントは、他のハラスメントと複合的に生じることも想定されるため、あらゆるハラスメント相談について、一元的に応じられる体制を整備する。
ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、コミュニケーションの活性化・円滑化のための取り組みや、職場環境改善のための取り組みを行う。
必要に応じて、労働者や労働組合などの参画を得る。アンケート調査・意見交換などによって、措置の運用状況の的確な把握や、見直しの検討などに努める。
いくら会社に相談窓口が設けられていても、同じ会社の人にハラスメントの相談はしにくいかもしれません。
もしかしたら、その相談担当者がハラスメントの行為者ということもありえます。あるいは、相談しても、満足いく対応をしてもらえない場合もあるでしょう。
そういうときは、ぜひ都道府県の労働局に相談してください。
匿名で相談できるのでプライバシーは守られますし、無料で利用できます。労働局の所在地や電話番号は、厚生労働省のサイトに掲載されています。
また、厚生労働省のサイトには、「ハラスメント悩み相談室」という厚生労働省委託事業の案内もあります。
職場のハラスメントについて悩んでいる方は、一度目を通して見ることをおすすめします。