税理士として働くためには、まず税理士資格を取得しなければなりません。資格試験に合格し、実務経験を積むことで晴れて税理士としてデビューできます。
今回は最初の一歩として税理士資格を取得するまでの道のりをご説明します。
税理士資格の概要
税理士は、税金のスペシャリストです。主な業務では、税務相談を受けたり、依頼主の代わりに税務書類を作成したり、税務手続きをサポートします。
税理士試験は、税理士になるための知識や応用能力を有しているかを判定する国家試験です。税務は税理士の独占業務であるため、これに対応する能力があるかを評価されます。
国家試験に合格することで税理士になる資格を得ます。ただし、合格するだけでは税理士になれません。実務経験や登録を終えて晴れてデビューとなります。
試験の開催頻度は年に1度です。毎年8月の上旬に、国税局や国税事務所の所在地などで実施されます。試験日程は、基本的に3日間です。
- ● 大学または短大の卒業者で、法律学または経済学を1科目以上履修した者
- ● 大学3年次以上で、法律学または経済学を1科目以上含む62単位以上を取得した者
- ● 一定の専修学校の専門課程を修了した者で、法律学または経済学を1科目以上履修した者
- ● 司法試験合格者
- ● 公認会計士試験の短答式試験に合格した者
- ● 日商簿記検定1級合格者
- ● 全経簿記検定上級合格者
- ● 法人または事業を行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者
- ● 銀行・信託会社・保険会社等において、資金の貸付・運用に関する事務に2年以上従事した者
- ● 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した者(※転職した場合も、通算して2年以上であれば可)
上記の中でどれか1つの条件を満たしていれば税理士試験の受験が可能です。
また、税理士試験には以下のとおり受験科目の免除制度があります。
- ● 大学院で「税法」「会計学」に関する研究(論文発表)をすると該当科目を免除
- ● 10年または15年以上税務署に勤務した国税従事者は、税法に属する科目を免除
- ● 23年または28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者は、会計学に属する科目を免除
- ● 弁護士試験・公認会計士試験に合格すると全科目を免除
- ● 簿記論
- ● 財務諸表論
- ● 法人税法
- ● 所得税法
- ● 相続税法
- ● 消費税法または酒税法
- ● 国税徴収法
- ● 固定資産税法
- ● 事業税または住民税
合格のボーダーラインは、各科目で60点以上を獲得することです。
なお、一つの科目に合格すると翌年以降に持ちこせ、かつ有効期限がありません。つまり、1年目2科目合格し、2年目に1科目、3年目に2科目など数年かけて順番に合格していくことも可能です。
税理士になるための5つの道のり
王道は大学や短大、専修学校などに進学して法律・経済について学び、受験資格を得て、税理士試験に5科目合格する方法です。税理士を志している人は、このルートを中心に考えましょう。
具体的な科目については上記でご説明したとおりで、必須科目と選択科目があります。自分が習得したい科目を中心に学習を進め、税理士試験で60点以上の獲得を目指してください。
大学院で研究している科目によっては、税理士試験の免除を受けられます。すべての科目が免除とはなりませんが、5科目の受験ではなくなり負担を軽減できます。
免除される方法と科目については前述のとおりです。税法もしくは会計学の該当する科目が免除されます。「どのような研究がどの科目の免除につながるか」は複雑な基準が設けられているため、最新の情報を国税庁の税理士試験公式サイトなどで確認してください。
弁護士や公認会計士は試験が免除されるため、試験なしで税理士に登録できます。すでにこれらの士業として働いているならば、税理士への転身が可能です。ただ、公認会計士については一部研修を受けなければなりません。
なお、厳密には「司法試験合格者」「会計士試験合格者」の段階で税理士の登録が可能です。弁護士や公認会計士になるためには登録が必要となりますが、登録していない人でもこれらの資格を利用して税理士になれます。
一定期間税務署に勤務した人は、税理士試験の科目を一部免除されます。すべての科目が免除されるわけではありませんが、税務署で働きながら税理士になることが可能です。
免除される科目は前述のとおり、税法と会計学です。「最低でも10年間以上勤務が必要」と長い道のりではありますが、税務署で働き続けていれば税理士になるチャンスがあります。むしろ税務署で長く働いているならば、その経験を活かして税理士を目指してみましょう。
銀行・信託会社・保険会社などで会計や資金の貸付・運用に従事したり、税理士・弁護士・公認会計士などの業務の補助事務に従事したりすることでも試験資格を満たせます。科目の免除こそありませんが、「実務経験2年以上」という比較的満たしやすい条件です。
税理士試験合格までの道のり
冒頭でご説明した税理士試験の受験資格を把握しましょう。受験資格を満たしていなければ、税理士への道は開けません。
受験資格を満たしているならば、試験の合格に向けて勉強をスタートします。もし、受験資格を満たしていないならば、「専修学校への進学」「日商簿記検定1級合格」など受験資格を満たすための事前準備から取りかかりましょう。
なお、令和4年度税制改正により、受験資格の緩和が告知されています。会計学は受験資格が不要となり誰でも受験可能かつ、大学で学んだ科目の条件に「社会科学」が含まれるように変更される予定です(※今後、変更される可能性があります)。
税理士試験で受験する科目の学習を進めましょう。
ここで重要なことは「受験で選択した科目が、将来の税理士業務に影響する」という点です。資格取得にあたって学んだ科目の知識が就職活動に影響したり、就職後に関連する業務を任されたり、実務経験を早くに積むチャンスが増えるためです。将来的に就きたい業務や任されたい案件を踏まえて科目を選択すべきでしょう。
毎年8月の税理士試験に申し込み、合格を目指しましょう。合格までに必要な年数は2〜3年、長い場合は10年以上かかるケースもあります。科目の免除や実務経験などで個人差が生じるため、自分の状況に応じて合格までの道のりを計画しましょう。
税理士試験の合格者は「税理士になる資格を有する人」であり、この段階では税理士ではありません。税理士として業務に従事するためには、税理士の登録が必要です。
ただ、登録は無条件にできるものではなく、租税・会計に関する事務で実務経験を2年以上積まなければなりません。税理士事務所などで雇用してもらい、実務経験を積んでから登録手続きをしましょう。
実務経験を積んだ後に、税理士の登録手続きを進めましょう。必要書類を作成し、登録料などの支払い(およそ20万円)などを済ませます。書類の簡単な審査などはありますが、手数料の支払いなど問題がなければ、すぐに登録可能です。
学習方法に「独学」と「予備校に通う」どちらを選ぶかで必要なお金は大きく異なります。
予備校に通う場合は、合格までの年数によって学費が変化するでしょう。支出を抑えたいならば、独学を選ぶこともできますが、合格のハードルも高くなります。大手予備校の受講料を参照してみると、年間で20万円〜80万円と大きな開きがあります。
合格までの時間は人によって大きく異なります。例えば、実務経験を積んでから税理士を目指す人と学生時代から学習して税理士を目指す人では大きく差が出るでしょう。基礎から学習する場合は、数千時間の学習が必要だと言われているほどです。ちなみに、令和3年度の合格者数は受験者27,299名中5,139名(うち、5科目到達者数は585名)で18.8%でした。
税理士になるまでの道のりをご説明しました。税理士試験の合格が王道の道のりですが、大学院での履修などによる科目免除制度を利用できます。また、弁護士や会計士にも免除制度があり、税務署で働くことでも免除可能です。
王道で学習する場合は、どの科目を選択して受験するかの決定が重要です。ここで受験した科目は、就職や独立後の業務に影響します。「簡単そう」と短絡的に選択するのではなく、将来を見据えて決定しましょう。